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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和37年(う)55号 判決 1963年3月29日

判   決

米穀商

中ノ瀬秀男

大正四年七月二七日生

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人尾崎勇蔵提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

控訴趣意第一点について

所論は、被告人は本件事故発生までに自宅附近空地で二回練習運転をしたに過ぎないのに、自宅附近路上で数回運転し自動車運転の業務に従事していたとして、本件を業務上過失致死に問疑したのは事実を誤認し、ひいては法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。しかし刑法第二一一条の業務とは人がその社会生活上の地位に基づき反覆継続して行うもので、一般に人の生命、身体に危害を加える虞のある仕事を意味するが、自動車運転の如きは、その性質上人が社会生活上の地位に基いて行い、しかも人の生命、身体に危害を加える虞れのある行為にして、苟しくも反覆継続の意思でなされる以上業務ということを妨げないから、反覆継続する意思で自動車を運転する限り、たとえのそ運転が練習のためであつても、又過去において運転練習した回数が二回であり、場所が空地であつたに過ぎないとしてもその運転は業務に当るといわなければならない。原判決挙示の証拠によれば、被告人は本件事故当日の四日前である昭和三六年六月二三日頃融資先の湯場弘から本件軽自動三輪車を引取つて所有していたところ、これを自己の営む米穀商の業務に使用しようと考え、爾来運転免許をとるため肩書自宅から一〇〇米位離れた空地で二回程右軽自動三輪車を使用して練習運転し(練習運転した場所が自宅附近道路でなかつたことは所論のとおりである)、本件事故もかゝる練習運転を公道上で行つた際に惹起した事実が認められるから、反覆継続する意思で自動車を運転していたものというべく、原審が被告人の本件所為を業務上過失に該当するとして刑法第二一一条前段を適用処断したのはまことに相当であつて、原判決には所論の如き法令の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

<以下省略>

昭和三八年三月二九日

福岡高等裁判所宮崎支部

裁判官 白 井 守 夫

裁判官 塩 見 秀 則

裁判長裁判官富川盛介は転任につき署名押印することができない。

裁判官 白 井 守 夫

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